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首藤謙二院長が『宮崎市郡医師会会報』へ寄稿されました。

 

「コロナうつ」と自殺

     

                                                  宮崎市郡医師会理事 首藤謙二 

  警察庁によると、国内の自殺者は2009年(3万2845人)から昨年(2万169人)まで10年連続で減少している。今年に入っても6月までは前年を下回っていたが、7月に前年同月比25人増に転じると、8月は251人増と大幅に上昇。特に女性の増加が目立つ。また、著名人の自殺とみられる死去の報道が相次いでいる。これらの統計や報道の原因のくわしい分析はまだだが、誰しも「新型コロナウイルスの感染拡大の影響」を考えずにはいられない。それはこのような社会では、今日一日の行動や計画も明日からの行動や将来設計も全て新型コロナを考慮に入れて判断しなければならないからである。近年このような世界的な行動制限や日常生活の変化を強いられる現象は記憶にない。そして、この期限の見えない束縛感と閉塞感、将来への不安が世界中でメンタルヘルスの不調を引き起こしている。これがいわゆる「コロナ鬱」「コロナブルー」と呼ばれるマスコミの造語である。このうつ状態にまで至らしめるコロナに関連する不安を分類すると大きく3つに分けられる。 

  1. 自分や家族が罹患してしまうのではないか、自分が家庭や職場で感染させてしまうのではないかという、感染に対する直接的な不安。

  2. 経営悪化や解雇などによる経済的な打撃など、感染が蔓延することによる間接的な不安。

  3. 外出自粛、活動自粛、人と会うことの自粛などによる日常生活の制限から引き起こされる欲求不満や自我意識喪失への不安。

 

 これらの不安が単発または複合的に継続すると、気分の落ち込みや身体症状を生じさせうつ状態へと進展していく。そして、そのままの経過に任せると希死念慮を持つに至る。

 ある財団の分析では絶望感、孤独感、自殺願望、希死念慮を経験する可能性が最も高いのは若者、失業者、シングルペアレント、長期の健康問題を抱えている人たちであるという。確かに、常に家庭の経済状況を不安に感じてきたシングルペアレントや心の問題を抱えながらも耐えてきた人にとっては、これらのコロナからのうつが最後の一線を越えさせてしまう可能性があり、注意しなければいけない。

 昨年の厚生労働省の公表によると、15歳から39歳までの死因の第1位がいずれも「自殺」である。また、40歳代での死因の第1位は「がん」であるが、第2位は「自殺」である。20代、30代の死因の第1位が「自殺」である傾向は、もう20年以上変わらないで推移しているという。このように若者が自ら死を選ぶ国は、先進国といわれるなかでも日本だけである。芸能人に代表される著名人の繰り返される自殺の報道は、新型コロナウイルス禍では更に多くの若者の自殺を誘発する可能性がある。今日のメディアは具体的な自殺の場所や方法を伝えたり、原因に関して憶測交じりの報道をして視聴率を上げようとする。このような報道が過度に繰り返されると、若者は自らの自殺をイメージしやすくなり、「自分も似た悩みを抱えているから、自殺してもいいのかもしれない」と思ってしまいやすくなる。そのため、生きづらく思い悩んできた若者の模倣的自殺の危険性が高くなる可能性がある。そこで、もちろん報道の在り方も検討してもらう必要があるが、自殺者を減らすための第一義的な方策は、うつを予防することである。
 そこで、コロナ禍におけるうつ予防の日常生活上の注意点について挙げてみた。

  1. これまで通りの規則正しい生活を続ける。

  2. 軽い運動を習慣化する。

  3. 緊張しない誰かと会話をする。

  4. 正しい情報を自分に必要な分だけ取り入れる。

  5. 自分でできる範囲の感染対策を実践する。

 

 特にひとり暮らしで重要になることは、「会話すること」である。コロナ禍では外出もままならず、他人とのかかわりが遮断されて「孤立状態」となりやすい。電話やオンライン通話を取り入れて家族や友人と会話することが必要である。手紙やメールではコミュニケーションは不十分であり、SNSでの不特定多数との発信や受診はコミュニケーションとは言い難い。
 

 うつ病になりやすい人は、本来真面目で頑張りすぎてしまう面がある。悩みがあっても周囲を気遣い、自分からはなかなか助けを求められない。そして、一人で抱え込むことで、自殺への衝動に駆られる傾向がある。このような状態になる前に、身近な人は変化に気づいて、話を聞いてあげることが大切である。

会員の先生方の日頃の診療の中で万が一、自殺をほのめかすような患者さんがおられたなら、早めの専門医受診を促していただくようにお願い致します。

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